At-will employmentなど、 アメリカの雇用の実情
前回の記事の続きを書く前に、アメリカの雇用の仕組みを少し説明しておいた方がこれからの記事の内容を理解しやすくなると思ったので、割り込みの記事を書くことにしました。
(↑映画『ブルース・オールマイティ』の即日解雇のシーン)
At-will employment
"At-will employment"は、日本語では『随意雇用』と訳されていて、契約書に雇用期間の定めがない場合、雇用主も被雇用者もどちら側からもいつでも、理由の有無に関わらず予告なしに雇用契約を自由に解約できる雇用の仕組みで、アメリカの殆どの州でこの仕組みが採用されています。
雇う側も雇われる側も予告やペナルティなしで随時契約破棄ができるので、一見、両者に平等な仕組みの様に思えますが、実情は被雇用者側に圧倒的に不利な仕組みです。
不法行為や職務規定違反などの正当な理由なしに即日解雇や辞職が可能なので、解雇された被雇用者はいきなり路頭に迷う事になります。
国民皆保険制度のないアメリカでは、失業すると企業と掛け金折半で加入していた医療保険も解約になってしまい、公的?な医療保険(オバマケアなど)に加入したくても掛け金は前年度の収入で算出されるため、失業して無収入の状態では高額すぎて加入できないケースが殆どです。
即日解雇が可能と言っても訴訟社会のアメリカなので、あまりにも理不尽な場合は雇用主が訴えられるケースもあり、雇用主もスキル改善プログラム(事実上の解雇予告)などを受けさせたり、解雇後も医療保険が使えるように手続きしたり一時金を支払うなどのパッケージを提示したり訴訟回避策を打っています。
雇用主にとって最もお金のかからない方法は、パワハラや嫌がらせをして被雇用者から「退職する」と、言わせるやり方で、もしパワハラで訴えられても弁護士を雇って解決するやり方です。
企業VS一個人では弁護にかけられる費用は大きな差があるため、性的暴行と身体的暴行以外の事例で企業側が負ける事はないそうで、多くの解雇者が泣き寝入り状態だそうです。
At-will employmentでは、雇用主が即日解雇も可能なように、法的には被雇用者も退職届け当日や提出の翌日には退職が可能です。
退職は可能なものの、退職に関しての手続きや仕事の引継ぎなどを全く行わずに辞めると、信用や評判を落として将来の職探しや取引などに影響が出る可能性があるので(いつ即日解雇になって職探しをしなければならない状況になるかもしれない中で評判が低いと求職活動に不利になる)、慣例として2週間前に退職の意志を通知するのが一般的になっています。
大体が直属の上司と人事に退職希望日をメール(以前は紙だったけれど、今は全てデジタル化されている)で、通知します。
2 weeks noticeの文例は"2 weeks notice letter sample"などのキーワードでネット検索すると、サンプルの文面がヒットするので、サンプルの文章をコピペして、宛先と送り主の連絡先を書き換えて送ればOKです。
この記事では、At-will employmentと2 weeks noticeについて軽く説明しました。
次回の記事は、また3度目の転職の経過について書きたいと思います。
追記:
医療保険について
アメリカは日本のような国民皆保険制度がありません。
医療保険は保険会社の提供しているプライベートの保険に加入します。
公的な保険ではないので掛け金が高額です。
保険の契約にもよりますが、配偶者と子どもの家族保険で大体1か月3000ドル(現在のレートで約45万円)くらいです。
正規雇用者(正社員)は、会社が指定した保険会社のプライベート医療保険の掛け金を一部負担(多くの場合半額)負担してもらえるので、時給が高いけれど医療保険がないパートタイマーよりも、最低賃金でも正規雇用で医療保険を会社が補助してくれる仕事を選ぶ人が多いように思います。
保険の掛け金が高額なので、企業はできれば掛け金を払わないで済む方法を考えます。
バーバラ・エーレンライク著の『ニッケル・アンド・ダイムドーアメリカ下流社会の現実ー』には、大手スーパーWalmartで潜入取材のために働いていた時、新しく入って来た雇用者の試用期間に、スリーアウトルールと言って、遅刻やレジの間違いなどが3回報告されると解雇にされるとことがあったそうです。
遅刻は悪天候であろうと、病気であろうと関係なしにカウントされ、レジの間違いは客がレジの間違いに気がついてカスタマーサービスに報告すると、報告した客に報奨金が払われるようになっていたらしいです。
そこまで躍起になって試用期間に解雇したがるのは、試用期間には医療保険などの費用を企業が払う必要がないので経費が安く済むからで、特別なスキルの必要とされていない単純労働者を、試用期間が終わって正規雇用に切り替わる前に解雇することを繰り返して低賃金の労働力を確保するやり方です。
At-will employmentと医療保険制度は数あるアメリカ社会の闇の部分の一つ(2つ?)だと思います。
これらの闇を体験したり、話を聞いたりすると日本はまだまだ恵まれているのかも知れないと思います。
| 固定リンク | 6
コメント
>正体不明さん
訪問&コメントありがとうございます。
お返事が大変遅くなってすみません。
アメリカでお仕事って、憧れる方も多いようですが、日本の様に新人教育などないし、即戦力が求められます。
特に外国人は就労ビザを雇い主がお金を払って申請しなければいけないので、Jビザなどの研修ビザで雇って、ビザが切れたら使い捨てにされることが多く、正規雇用されるのは難しい状況です。
投稿: yuuki | 2024年6月21日 (金) 11時06分
生々しい、アメリカの雇用状況、とても参考になります。
日本では解っていない人が多いですね
投稿: 正体不明 | 2024年6月17日 (月) 14時23分
生々しい、アメリカの雇用状況、とても参考になります。
日本では解っていない人が多いですね
投稿: 正体不明 | 2024年6月17日 (月) 14時23分